The beautiful colors
I met on my journey.わたしが出会った、色の記憶。
《Clearginoスペシャルエッセイ企画》
第五弾は女優 川上 麻衣子さんからの手紙。
幼少期をすごした王国スウェーデン・ストックホルム。
優しさと強さを秘めたその街にある、ゴールドの記憶を川上さんの写真と共に旅します。
ESSAY #005
1966年2月。
まだ日本人が少なかったスウェーデンストックホルムの街で私は生まれました。
専門書でしか知らなかった蒙古斑が珍しくて、生まれたばかりの私のお尻を見るために、何人ものお医者さんが病室を訪れたそうです。
出生からまもなくして、日本に戻った私が再びストックホルムに暮らすこととなったのは1975年。
9歳の時です。
言葉もままならないまま、現地の小学校に編入し過ごした日々が、私の中に沢山の影響を与えていることは、歳を重ねるほどに実感するところです。
北欧のデザインを学びたかった両親が選んだその国は、わたしにとっても特別な場所となりました。
1年に1度は、訪れないとスウェーデンが足りなくなりストレスを抱えると言う母に連れられて、私も今ではすっかり「北欧びいき」の一員です。
どんな時も、変わらぬ景色が迎えてくれるオールドタウンの街並みは特に美しく、その建物たちを客観的に眺められるお気に入りの場所には、GOLDの王冠が輝いています。
王国であるスウェーデンの静かで優しさに満ちた精神を象徴しているようです。
スウェーデンへの憧れを考えた時、私にはいつも思い出す場面があります。
今から30年近く前のこととなりますが、当時80歳を越えて、一度も海外を旅したことのなかった祖母を連れて、ストックホルムの地を訪れた時のことです。
このGOLDに輝く王冠の場所までは、ストックホルムにある小さなアパートメントの自宅から歩いて、祖母の足で30分ほどの距離にあります。杖を頼りにする祖母と共に歩いていると、ストックホルムの街に驚くほど段差がないことを改めて実感することとなりました。福祉が進んでいるスウェーデン人の考え方は、「身体の不自由な方に手を貸す優しさではなく、人の手を借りずに独りで自由に動ける社会を作る」ことなのだそうです。
1ヶ月ほどストックホルムに滞在した明治生まれの祖母もすっかり自立を覚えて後半は独りで散歩に出かけ、ご近所のご老人とYESとNOをうまく使い分けて会話を楽しむようになっていました。
そして何より驚いたことは、祖母が自らその指に華やかなマニキュアを塗り、お洒落を楽しみ始めたことです。
GOLDの王冠を見るとそんな祖母との思い出が蘇ります。
美しい王冠に象徴されるようにスウェーデンの街と、そこに暮らす人々の生き方には優しさと強さを感じます。
自然を愛する優しさは、自らが環境を守っていくという強い意志のもとにあり、自由を求める生き方を支えているのは、それぞれが自立しなければならない厳しさを秘めています。
自然体で生きるスウェーデンの人々が愛する美しい街を、いつか訪れる機会ができた時にはぜひ、小さなシェップスホルメン島に渡る橋に飾られたGOLDの王冠を見つけてくださいね。
photo and illustration by:
Maiko Kawakami
Avan-s-XH
Ivan-Vashchenko
Olena-Sergienko
AUTHOR
川上 麻衣子(かわかみ まいこ)
女優/ガラスデザイナー
スウェーデン ストックホルム生まれ。
1980年に14歳でデビュー。「3年B組金八先生」(TBS)の生徒役で注目を浴びる。数多くのテレビドラマや映画、舞台に出演し活躍しながら、吹きガラスで、個展なども催している。映画「でべそ」で第6回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞を受賞。また、スウェーデンの絵本2冊を翻訳。著書は『ストックホルムからの手紙-My Swedish Style』(2001年、同朋舎)、『彼の彼女と私の538日 猫からはじまる幸せのカタチ』(2015年、竹書房)
2018年より人と猫との幸せを創造する一般社団法人ねこと今日の代表理事。